淺沼組では、 “GOOD CYCLE”をテーマに学び合うイベントを毎年開催しています。今回は、全国から社員が集まり、大阪・関西万博で淺沼組が建設に携わったオランダパビリオンを会場にし、「循環型建築から世界とのつながりを考える」をテーマに掲げました。講演やトークセッション、オランダパビリオン内部ツアー、懇親会を通して、循環型建築の最前線を体感しながら、GOOD CYCLE PROJECTの可能性を社員一人ひとりが共有しました。本記事では、その一日の様子を通じて、淺沼組が描く“より良い循環”のかたちをお伝えします。

01-オープニング

まずは、開会にあたりオランダパビリオン館長のヤン・ポール・クルーセさんから歓迎の挨拶をいただきました。
「淺沼組の皆様をVIPゲストとしてお迎えできることを、オランダ政府を代表して誇りに思います。淺沼組の皆様、そしてこのパビリオンを建設するためにご協力いただいたすべてのパートナーの方々に感謝いたします。オランダと日本という異なる文化のもとでの協働は、決して容易なことではありませんでした。しかし、互いを尊重し、一つのゴールに向かって力を合わせた結果、このパビリオンを完成させることができました。日本とオランダ、多くのパートナーの協力に支えられて、この循環型パビリオンは実現しました。心より感謝いたします」
感謝の言葉に続き、クルーセ館長は“建てて終わり”ではない、この建物の循環にも触れました。
「オランダ政府は、万博にインパクトを残すことを望んでいますが、負の遺産として建物を残すことは望んでいません。終了後、このパビリオンは淡路島へ移築され、再び新たな役割を担います。循環の思想を体現できることを、心から嬉しく思います。」 プロジェクトの立ち上げ時から、サーキュラリティ(循環性)を重視するオランダの思想に基づき、「解体・再構築」を前提にした設計・施工が求められました。その実現方法が、今回のイベントで取り上げられたテーマのひとつとなっています。

続いて、本イベントの主催である浅沼部長から、開催に込めた思いとオランダパビリオンに携わった経緯が語られました。
「本日は暑い中ご参加いただきありがとうございます。55年前、1970年の大阪万博では、淺沼組はメディアセンターやカンボジア館、ラオス館などの建設を手掛けました。その歴史もあり、今回も必ず関わりたいと強く願い、ご縁あってオランダパビリオンの建設を担当することになりました。名古屋支店での環境配慮型改修など、私たちの実践をオランダの関係者に高く評価いただいたことが、このパビリオンに結びつきました。会期終了後に移築される設計思想や、土や環境配慮型コンクリートの技術を取り入れた実例は、まさにGOOD CYCLEの理念そのものです。
関西での万博は、人生で二度とない特別な機会になるでしょう。創業133年の歴史と、“GOOD CYCLE PROJECT”という先進的で未来志向の取り組みが重なったこのプロジェクトを、ぜひ皆さんに見て、体験し、楽しんでいただきたいと思い、この企画をさせていただきました」
02-プレゼンテーション・トークセッション
続いて行われたプレゼンテーションでは、CC部と共同主催である技術研究所・山﨑順二所長から「循環型建築について」、またオランダパビリオン建設を指揮した山下工事部長から「施工プロセス」について発表がありました。その後、浅沼部長の進行でトークセッションを行い、循環型建築の可能性や施工現場での挑戦など、実体験に基づくディスカッションが繰り広げられました。

「高度成長期以降は“つくって・使って・捨てる”リニア型の経済が進んできました。1990年代後半からはリサイクルやリユースが広がりましたが、それでも品質を落としながら最終的に廃棄する“カスケードリサイクル”にとどまっています。それに対して“サーキュラーエコノミー”は、廃棄物を出さずに資源を循環させる考え方であり、これからの建築や産業が目指すべき方向です」(山﨑順二)
従来の“リデュース・リユース・リサイクル”という「3R」に加え、修繕(Repair)・再生(Regenerative)・発想の転換(Rethink)といった新たなRを加えた考え方を紹介。また、オランダですでに実践されている、建材の種類や数量などを記録し、解体時の再利用を可能にする“マテリアルパスポート”※にも触れ、今回のオランダパビリオンがその思想を体現していると説明しました。
さらに、淺沼組の取り組みとして、名古屋支店での環境配慮型改修、施工現場で発生する土を資源に生まれ変わらせ、建物内に取り入れる「土間左官工法」や「環境配慮型コンクリート」の活用など、今回オランダパビリオンで採用された技術の実例を紹介。
「循環型建築は単なるリサイクルにとどまらず、建物を未来の資源として捉える発想の転換です。今回のオランダパビリオンは、その実践の一つとして社員の皆さんに体感していただきたい」と呼びかけました。
※マテリアル・パスポート 参照:オランダパビリオンから読み解く、循環型建築のあり方。サーキュラーエコノミーの先進国オランダの循環型思想を、万博で実現する

続いては、山下哲一工事部長による実現までのプロセスの紹介。設計をどのように施工へ落とし込み、完成に導いたかが語られました。
はじめに提示されたのは、波打つ外観と球体が組み合わさったユニークなパース図。「これをどうやって実現するのだろうか」。限られた工期やコストのなかで課題は次から次へと生まれ、設計事務所と綿密な協議を重ね、構造を2階建てに変更しつつも、特徴的なファサードと球体を忠実に再現しました。
「当初のイメージをそのまま実現するのは簡単ではありませんでしたが、調整を重ねることでデザインと施工の両立を図ることができました」と、山下工事部長は振り返ります。 施工段階では、地盤が軟弱で通常の基礎工事が難しいという条件に直面。淺沼組の土木部の知見を活かし、土木現場で多く用いられる「EPS工法(Expanded Poly-Styrene工法)」を基礎へ応用し、沈下対策を図りました。外装は、FRPパネルを用いて波打つ曲面を表現。球体の演出では「何色の光を放つのか」という設計意図の確認から始まり、透過素材の選定や発光方法を検討。調整を繰り返すなかで、最終的にはLEDを内部に組み込み、球体全体が柔らく発光する仕上げを実現しました。
「文化や工法の違いから幾度も調整が必要でしたが、日蘭のチームが互いに粘り強く協議し、ゴールにたどり着くことができました。循環型建築の思想を実際の形にできたことは、私たちにとって大きな財産になりました」と結びました。




続いて、トークセッションへ。オランダパビリオン建設について、浅沼部長より質問が投げかけられました。

山下
本当に「やったことがないことに直面することになった」というのが最初の印象でした。解体して転用するためには、どこまでやればいいのか。やりすぎれば費用がかかるだけになってしまいます。正直なところ、当初は「日本ではそこは潰してしまえば価格も抑えられるのに」と感じる部分もありましたが、進めていくなかで「何事もやってみなければ分からない」という思いに至りました。施工が始まってからは、材料の取り付け方法について、できる限り解体しやすいように工夫することが重要だと意識するようになり、ひとつひとつチャレンジして、どこまで転用できるか取り組んでいこうと思うようになりました。
浅沼
プロジェクト全体で予算が決まっているため、お金がいくらでもあればできることかもしれませんが、チャレンジ精神で取り組まれたということですね。山﨑所長はいかがでしょうか。
山﨑
研究所で建築材料の研究を続けてきた私の視点からいうと、どのような材料をどこまでリユースできるかが重要でした。特に私はコンクリートを主な研究対象としており、躯体部分を元の品質のまま転用するのは難しいと考えていました。オランダなどの先行事例では品質を落とさず維持することが前提ですが、国内の建築基準法を踏まえると、どこまで実現できるかが課題です。構造材の一部は対応可能と想定しましたが、鉄骨は溶接した場合どうするのか、あるいは仕上げ材についても転用の精度を保つのは難しいだろうという感覚を持っていました。
浅沼
山下部長の話とも共通しますが、オランダは非常に進んでおり、日本はまだ枠組みも実績もない状況で、非常に難しかったと思います。そこで、2つ目のテーマ「直面した問題と挑戦」に移ります。この循環型建築を実現するにあたって、資材の調達や施工の難しさなど、直面した問題や挑戦はありましたでしょうか?
山下
意匠性についての要求は、今回の設計者であるRAUでも非常に強くありました。例えば、この空間の立ち上がりの天井部分に貼っている壁は壁板になっており、表面のビスを順番に外せばすべて取り外せる仕様です。同じ仕様をほかの壁にも適用すれば取り外しが容易になるため、その提案もしていました。しかし実際には「ここはこのネジはいらない、もっと意匠性を上げたい」という要望がありました。つまり、外しやすさという機能性だけでなく、デザインとしての美しさも同時に求められる。そのすり合わせに非常に苦労しました。
浅沼
オランダパビリオンと淺沼組が進める“GOOD CYCLE PROJECT”の考え方の共通点はどのようなとこにあるのでしょうか?
山﨑
素材を循環させるという考え方です。名古屋支店の改修以降、研究所では土に着目し、循環型の建材開発に取り組んできました。建築に使う主な素材は土、木、コンクリート、鉄ですが、このなかで最も長いスパンで扱えるのは土です。しかもエネルギーをかけずに自然に還すことができます。オランダパビリオンが循環をテーマとするなかで、私たちが土をご提案したのは、まさにそのまま分解・再生できる点が評価され、採用につながったのだと感じています。
浅沼
最後に、“よい循環”を社会全体に広げていくために、それぞれの立場からどのような役割を担っていけるとお考えでしょうか?

山﨑
研究所としては、現在「微生物」をテーマの一つに掲げています。サーキュラーエコノミーには、生物性のものと非生物性(技術起点)の二つの流れがあります。非生物性の方は進行していますが、生物的な循環はまだこれからです。人間は土との親和性が非常に強く、最終的には土に還る存在でもあります。その視点から、空間における「生物学的な循環」とは何かを探る研究を進めています。今後は、より低炭素で、エネルギーを使わず、人にやさしくオーガニックなマテリアルや空間のプロダクトを提案していきたいと考えています。
山下
建物をつくることを30数年続けてきましたが、今回のプロジェクトを通じて「建物は資材の塊である」ということを改めて実感しました。その資材を継続的に長く使え、かつ解体しやすいものにできるか――これは非常に難しいテーマです。ただ、昔の木造建築はまさにそうした考え方でつくられていたとも言えます。循環型社会に近い形で建築していた時代の知恵に、考え方を戻す必要があるのかもしれません。もちろん、いきなり実現するのは難しいですが、オランダパビリオンをどのように、どの程度の資材を使いながら建てることができたのか。それを振り返りながら、私自身も学びを深めていきたいと思います。
プロジェクトの最後に、監修者の方から「人生は時々とても寛大で、あなたのような方に会わせていただいて幸せでした」という言葉をいただきました。この「人生は時々とても寛大で」というフレーズが心に残っています。建物も同じように、寛大なものとして捉えられるのではないか。精密につくることだけが建物の本質ではないのだと、強く感じながらこのプロジェクトを終えました。

03-オランダパビリオン内部ツアー
続いてプログラム後半は、お待ちかねのパビリオン内部見学ツアーへ。大阪・関西万博のなかでも人気が高く、予約が難しいと言われるオランダパビリオンですが、今回はイベントに合わせて特別に社内メンバーの見学が実現しました。ここからは写真を中心に、内部の様子をご紹介します。













04-感想共有会・クロージング・懇親会

ツアーが終わり会場に戻った社員たちからは、イベント参加の感想が共有されました。



“淺沼組のさまざまな部署の人たちが参画し「オール淺沼」でつくり上げられたことを感じ、興奮と誇らしい気持ちになった”
“万博後の解体・移築を前提とした建築やオランダ側とのコミュニケーションでの苦労を乗り越えて建物を完成したことについて大変感動した”
“オランダの皆様と淺沼組関係者との間に築かれた、温かい友好関係が印象的だった”
“オランダの建築理念と自社のGOOD CYCLE PROJECTの親和性が明確に感じられた。また、設計・施工・技術面において自社の力が発揮され、淺沼組がこのプロジェクトを担った意味がはっきり見えた”
“オランダパビリオンを施工した会社の社員として、このような素敵なイベントを開いてくれる会社に所属していることを誇りに思う”
続いて、プロジェクトメンバーからも一言ずつ想いが共有されました。



さらに、スペシャルゲストとして2025年大阪・関西万博 オランダ陳列区域政府代表 マーク・カウパース氏も登場。国境を越えて結集した多くの人々の力により実現したプロジェクトの成功を、会場全体で分かち合い、祝福しました。


続いて、懇親会へ。







部署や役職を超えて交流を深める、淺沼組らしい風景が広がりました。
万博という祝祭の場を舞台に、プロジェクトメンバーも、そうでない社員も、全員が「淺沼組が素晴らしいプロジェクトを成功させた」という感激を分かち合うひとときとなりました。


イベントが終了を迎え、外に出ると、万博の打ち上げ花火が夜空に開いていました。オランダの人々と共に見上げたその景色は、完成の喜びと重なり合い、忘れられない締めくくりとなりました。
浅沼
今回のプロジェクトは循環型建築として、解体・転用を前提とした、日本でも珍しい取り組みでした。最初に聞かれたときの印象は?