進化する「環境配慮型コンクリート」。コンクリート開発の描く未来とは

高度経済成長期からこれまでは、コンクリートの品質と強度をいかに高め、安定的に供給できるかが大きなテーマでした。そして現在は、品質を担保した上で「いかに環境への負荷を抑えられるか」へと開発の軸が移りつつあります。

「環境配慮型コンクリート」という言葉を耳にする機会が増えてきましたが、実際にはどのような取組みが行われているのでしょうか。環境配慮型コンクリート開発のこれまでの流れから、環境に向き合う新たな挑戦、そしてこれからの可能性まで。長年コンクリートの研究開発に携わってきた淺沼組技術研究所長・山﨑順二と、実務を担う建築材料研究グループリーダー・荒木朗に話を聞きました。

背景―建設業におけるコンクリート開発の今

1990年代に入ると、建設業界ではコンクリート高強度化が大きく発展し、超高層ビルやRC構造物、集合住宅の建設が盛んに行われました。並行して、社会全体では「3R(リユース・リデュース・リサイクル)」の考え方が広がり、コンクリート業界にもリサイクルの機運が高まっていきました。

ちょうどその頃、1996年に東京都で「世界都市博覧会」の開催が予定されており、解体時に発生するコンクリート塊(コンクリートガラ)を再利用した「再生骨材コンクリート」を会場建設に用いる構想が進められていました。1993年には、東京湾岸に立石建設が日本初となる再生骨材専用プラントを開設し、実用化に向けた試みが始まっていました。しかし、都市博は1995年に中止が決定し、この構想は実現には至りませんでした。しかし、この一連の取り組みによって業界全体が再生骨材の実用化に向けて大きく動き出し、技術開発を前進させる重要な契機となりました。

私は、1994年に淺沼組に入社しましたが、大学時代の1992年頃から再生骨材コンクリートの研究に取り組んでおり、入社後もその実用化を目指して研究開発を続けていました。技術研究所のある高槻市の近隣、枚方市に高品質な再生骨材を製造する工場があったこともあり、共同の研究開発が本格的に始まることになりました。
さらに淺沼組では、環境配慮型コンクリートに限らず、通常のコンクリート施工においてもセメント使用量を少しでも減らし、CO排出量を抑える取り組みを進めています。

リサイクルのジレンマと、環境配慮型開発の動き

再生骨材リサイクルの両面から研究開発を進めてきましたが、日本には建築基準法という法的制約があり、再生骨材を使ったコンクリートを構造物に適用することが困難な状況が続いていました。JIS規格の基準を満たす骨材が存在しても、法整備が追いつかず、構造体にはまだ使用できない。やがて、大臣認定を取得すれば建築基準法上でも使用可能となったのですが、ユーザーが「リサイクルした材料を使った建物」を受け入れる心理的ハードルは高く、社会に浸透するのは容易ではありませんでした。

例えば、ジーンズなどはヴィンテージとして価値が出る。ところが建物に関しては、リサイクル材やリユースをしたものになかなか共感していただくことができないんですね。強度や品質が確保できたとしても「じゃあ使ってみよう」とはなかなかならない。ユーザーに、価値や意義をしっかりと見出してもらえてはじめて、リサイクルコンクリートや再生骨材コンクリートで建物が建てられるようになるんです。
社会全体でこれだけ環境への関心が高まった今でも、構造体全体に使われるということは稀有なこと。どのように社会に浸透できるかということにも向き合っていかなければいけません。そのため、まずは人が住まう建築以外のプロダクトから少しずつ広がっているのが現状です。

2015年、国連サミットでSDGsが採択され、日本でも2050年カーボンニュートラルに向けて社会全体の動きが加速しています。建設産業において、CO2を多く排出している二大巨頭と言われるのが「鉄」と「コンクリート」です。鉄については高炉から電炉にシフトし、CO排出量が大幅に削減できるようになります。では、コンクリートはどうするか。
コンクリートは、セメントの製造過程で大量のCOが発生します。そこで「セメント使用量をできるだけ減らしたコンクリートをつくろう」という発想が広がり、少ないセメントで品質を確保する技術開発が進められてきました。これが、現在、ゼネコン各社が取り組む「環境配慮型コンクリート」の基本方針です。

資源循環を促す「環境配慮型コンクリート」

環境配慮型コンクリートは、資源を循環させるという視点から、他産業から出る副産物をセメントの代わりに利用してつくるコンクリートです。代表的な材料として、火力発電所から出る灰(フライアッシュ)や、鉄鋼業から出る高炉スラグ微粉末などがあります。これらの副産物は、アルカリ性環境で反応し、強度発現や品質にはある程度貢献することができ、セメントの一部と置き換えることで、CO2排出量を削減しながらコンクリートをつくることができます。

現在、業界ではさまざまな開発が進んでいます。たとえば、竹中工務店・鹿島建設・東京工業大学を中心とした共同開発による「ECMコンクリート」(ECMはEnergy・CO₂ Minimumの略。セメントの一部を高炉スラグ微粉末に置き換えている)や、鹿島建設の「CO2-SUICOM®(シーオーツースイコム)」(化学反応を利用し、コンクリートにCO2を吸収・固定させるもの)などがあります。

淺沼組でも「高炉セメントB種」とフライアッシュを混合した、低コストかつ汎用性の高い環境配慮型コンクリート(JISマーク品)を展開し、実際の現場で実装しています。 

「コンクリートの強度発現」とは、コンクリート中のセメントと水が徐々に化学反応により硬化し、時間経過とともに構造物として必要な強度を持つようになる過程のこと

コンクリートの性質を活かす新たな発想「カーボンプールコンクリート」

コンクリートはもともとアルカリ性で、時間の経過とともに大気中のCO2を取り込み、中性化していきます。CO2が内部に侵入して中性化が進むと、コンクリートのなかの鉄筋が錆びやすくなり、躯体の劣化の原因となる。これは、コンクリートの「悪いこと」として捉えられてきました。

ところが、視点をかえれば、「CO2を吸い込む」という性質は、「大気中のCO2を吸収・固定化している」ということでもある。そう考えれば、木材と同様に、コンクリートもCO2を吸収する性質があり、環境負荷低減に貢献できる可能性を持っているのです。
セメント使用量を減らしつつ、さらにCO2を吸収させる。これまで「悪」と捉えられてきた性質を逆手にとって、環境に資する新たな材料として捉え直す開発が進められています。そのひとつが、「カーボンプールコンクリート」です。
淺沼組もグリーンイノベーション(Green Inovation:GI)基金事業「CPコンクリートコンソーシアム」に再委託先として参画し、他社と協働して研究開発を進めています。「固まった後のコンクリートにどれだけの二酸化炭素を吸収させられるか」を検証し、さらに一歩進めて、骨材などの材料にも、あらかじめCO2を吸わせた上で、その材料を用いてコンクリートを製作する技術開発も取組みを進めています。

社会に浸透させるために

こうした環境配慮型コンクリートは、ゼネコン各社で開発が進められており、今回の大阪・関西万博では多くの実装例が見られました。淺沼組が参画する「CPコンクリートコンソーシアム」では「未来の都市」パビリオン内に32台のCPコンクリートベンチを設置し、通路の床材にはCPコンクリートを、さらにパビリオンを出た先の舗装には空孔のある「CPポーラスコンクリート」を使用しました。鹿島建設では環境配慮型コンクリートを用いた「CUCO-SUICOMドーム」の建設や、EXPOアリーナの歩道ブロックに「SUICOM」を採用しています。
淺沼組が今回実施設計・施工を担当したオランダパビリオンでは基礎に環境配慮型コンクリート「BB+FAコンクリートを採用しました。

※BB+FAコンクリート  参考:研究報告『環境配慮型コンクリート「BB+FA コンクリート」の概要と実施工への適用』(淺沼組技術研究所 建築材料研究グループ 山﨑順二・ 新田稔・荒木朗・ 宇井衞)

大阪・関西万博「未来の都市」パビリオン入り口付近のコンクリートベンチ
パビリオン内のコンクリートベンチと床材
オランダパビリオン建設の基礎工事の様子。「BB+FAコンクリート」を採用

こうした研究開発は、NEDO補助金を活用しながら、ゼネコン各社、コンクリート工業組合や大学の研究機関などが協力し、それぞれの技術力を結集して新しい価値を生み出そうと進行中です。これからは、こうした先端的な取り組みを社会にどう広げていくかが課題になります。

今後は、環境配慮型コンクリートが社会に浸透し、サーキュラーエコノミーにどのように貢献できるのかを提示していきたいと考えています。現状では、リサイクル材を使ってもコスト的なメリットはほとんどありません。ただ、今後、それを使うことでインセンティブが生まれたり、ユーザーにとってのメリットが見えるようになれば、「使う意義」がより明確になり、普及も進みやすくなるのではと思います。

品質をしっかりと確保することは大前提であり、その上で、サーキュラーエコノミーの視点をどう社会に提示していけるか。法整備が整い、建物に使用可能となったところで、最終的に判断するのは顧客です。その顧客に意味・意義をいかに感じていただけるかが課題です。
「この建物には環境配慮型の建材が使われています」と胸を張って言える。
それが自慢になるような環境をつくり出していきたいですね。そのためには、何らかの定義に基づく技術的なエビデンスが重要になる。技術研究所においても、脱炭素化技術に関する社会的認識と顧客への満足度を高めていくこと、それが研究者として私たちに求められている役割だと考えています。

淺沼組技術研究所長・コンクリート工学会近畿支部 幹事 山﨑順二

※NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金は、「グリーンイノベーション基金事業」の一環として、カーボンリサイクルなど次世代型技術の研究開発を支援する制度であり、2030年までを目標に取り組みが進められている。引用元:NEDO「グリーンイノベーション基金事業」公募情報
https://www.nedo.go.jp/koubo/EV2_100241.html

施工者として、CO削減に取り組む

作業所でコンクリート工事を始める際に、「コストも含めてより良い施工ができないか」という相談が私のもとに届きます。決められた設計図書の範囲内で、コストを抑えながら性能を落とさず、なるべく環境に配慮したコンクリートを採用できるように提案しています。
環境配慮型コンクリートは、従来のコンクリートとほぼ同等の使いやすさや施工性を保ち、強度も保証されています。適用可能な部位が限られることはありますが、従来のコンクリートと同じように使用でき、地域によっては同等の価格で出荷される場合もあります。また、環境配慮型コンクリートが使えないような作業所や部位であっても、過剰な強度発現を抑えることで、セメント製造に起因するCO2消費は抑えられます。

実際の作業所における工事では、コンクリートに要求されている性能以上の過剰な強度が出てしまうケースがあります。その場合は、調合を調整して強度を適正なレベルに抑えることでセメントの使用量を減らし、CO2排出削減につなげています。例えば、30 N/mm2で十分なところに40 N/mm2の強度が出ている場合、35 N/mm2程度に調整するイメージです。
こうした、「環境配慮型コンクリートの導入」「強度発現の適正化」の二本立てで、施工現場における環境負荷低減を進めています。

2021年度からは、株式会社安藤・間を主体とした「CPコンクリートコンソーシアム」に参画し、ゼネコン各社や生コン工場、鉄筋メーカーなどと連携してCO2を積極的にコンクリートの中に取り込む研究を進めています。淺沼組でも、コンクリートが硬化する過程でより多くのCO2を吸収させる工夫に取り組んでいます。従来は「劣化の原因」とされてきたCO吸収を、環境に資する特性として活かそうとする動きが、産官学で一斉に舵を切り、世の中を変えようとしている。そこに非常に面白さを感じます。

淺沼組では、2024年度に約7,000立米の環境配慮型コンクリートを適用し、約1,050トンのCO削減を実現しました。環境配慮型コンクリートの導入は、一般的な建物ではまだ普及段階にありますが、関西では生コンクリート工業組合とゼネコン各社が協力して実証を重ねてきた歴史があり、協働の土壌があります。今後は、事業主や設計者に対しても丁寧に価値を伝え、環境配慮型コンクリートの活用をさらに広げていきたいと考えています。

淺沼組技術研究所 建築材料研究グループリーダー 荒木朗

参考:
「グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」に係る公募について
CPコンクリート・コンソーシアム
EXPO2025 CPコンクリート・コンソーシアム

Text, edit Michiko Sato

 

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