2025年7月、東海労働金庫桑名支店の新築プロジェクトが竣工しました。
東海労働金庫では、新店舗に海洋プラスチック製の家具を取り入れたり、環境問題に取り組む人材育成を目的に「ろうきん森の学校」を開校するなど、持続可能な社会に向けた独自の取り組みを続けてきました。
今回の新店舗でも、より環境に配慮した空間づくりを目指し、淺沼組からの提案により、自然素材を活用した“土壁”を内装に導入。職員やご家族が実際に施工に参加するワークショップも実施し、空間づくりに関わる体験を共有しました。





施工プロセスでは、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を積極的に活用。たとえば、BIM上での事前検証によって、カーテンボックスと鉄骨柱のダイヤフラムが干渉していることが早期に判明し、設計段階での対応が可能となったことで、現場での手戻りを防ぎ、スムーズな施工につながりました。
また、3Dでの可視化によって基礎工事などの工程も関係者間で具体的に共有でき、専門知識を持たない関係者にとっても内容の理解が深まり、意思決定の迅速化や情報共有の精度向上に寄与しました。
さらに、BIMデータをもとに技術研究所が室内温熱環境解析を実施。建物の環境性能を可視化し、最適な温熱環境の実現に向けた検証を行うことで、より快適な室内空間の提供を目指しました。



職員が自ら土を塗る、土壁ワークショップを開催
本計画では、基礎工事で発生した建設発生土を廃棄せず、現場で一時保管し、内装仕上げ材として再利用しました。建設発生土を内装に再活用することで、廃棄物を削減しながらも、土ならではの質感や調湿性を活かした空間を実現。また、使用する材料はすべて自然素材のみで構成されており、セメントなどの人工的な接着剤を用いないことで、土を将来的に“土に還す”ことも可能です。
あわせて、職員およびご家族が参加する土壁ワークショップを実施。左官職人の指導のもと、参加者が実際にコテを用いて壁面を仕上げる工程を体験しました。初めての作業に戸惑う様子も見られましたが、作業が進むにつれ自然と熱中し、素材の扱いや仕上げの難しさ・面白さに触れる機会となりました。
こうした体験を通じて、自ら手を加えた空間には自然と愛着が生まれ、参加者同士の協働作業によって、現場内でのコミュニケーションが活性化し、組織内の関係性向上にも寄与します。







本プロジェクトに携わった、事業主である東海労働金庫 原佑作さん、設計を担当した株式会社玉井設計 安藤裕太さん、施工を担当した淺沼組名古屋支店 山田幸一の3名より、それぞれの視点より今回の取り組みに関するコメントをいただきました。

“つくる”プロセスに関わることで、店舗への愛着と、語りたくなる空間への意識が育まれた。
ー東海労働金庫 原佑作さん

東海労働金庫は、労働組合に所属する方々を主な対象とし、「働く人々の生活水準の向上」に寄与することを使命とする、非営利の協同組織金融機関です。海洋プラスチック製の什器を再資源化するなど、環境への配慮にはこれまでも取り組んできましたが、今回の桑名支店では、これまでにない新たな試みに挑戦しました。当初は店舗の標準化を目指すという方針で計画を進めていましたが、時代の変化をふまえ、「既存店舗と同じで良いのか」という問いが生まれていました。



そうしたなかで、淺沼組さんから提案いただいた「土壁」は、お客様の相談をメインとしたこれからの店舗のあり方を考えるうえでも、非常にしっくりくるものでした。私たちが仕上げ材に土を取り入れるのは初めての取り組み。実際に名古屋支店を見学させていただいたことで、空間のイメージが明確になり、自然素材の柔らかさを感じました。また、ワークショップで社員の方が施工されたと伺い、私たちの方でも同様の体験を取り入れたいとお願いしました。自然素材である土を仕上げ材として活用し、その施工を職員や家族が手がけるというプロセスには、大きな魅力を感じました。

これまでの店舗の新築や移転は、職員にとって、完成した場所に荷物を運び入れるだけの「引っ越し作業」として捉えられていました。しかし今回は、実際に手を動かして土を塗るという体験を通じて、「自分たちが関わってつくった店舗」という実感が生まれ、建物への愛着やチームの一体感にもつながったと感じています。
さらに今回は、基礎工事の掘削時に出た土を活用しており、地域の素材を使うことで、この場所ならではのつながりやストーリーが空間に生まれました。それは、お客様との会話のなかでも自然と話題になるような、ちょっとしたきっかけにもなっていくように思います。(東海労働金庫 原佑作さん)

素材に触れ、関わることから始まる“循環”の第一歩。
―株式会社玉井設計 安藤裕太さん

循環型社会に向けた第一歩は、特別な技術からではなく、素材に「触れる」「知る」といった体験から始まると感じています。今回のように、実際に自分の手で土壁を塗るワークショップに参加できたことは、設計者としても貴重な経験でした。頭では理解していた左官の工程も、実際にやってみることで素材の特性がより実感を伴って理解でき、何より、職員の皆さんが楽しそうに関わっている姿が印象的でした。建物を使う人が、つくるプロセスに関わること。その経験が空間との距離を縮め、愛着を生み出すきっかけになると、改めて感じました。

ただ、サステナブルな素材や手法を選ぼうとすると、どうしてもコストや工期の問題が出てきます。たとえそれが“良い選択”であっても、選んだ側が我慢を強いられる場面も少なくありません。そうした状況では、設計者としても一概に「これが正しい」と勧めきれないのが正直なところです。 だからこそ――というより、「それでも」という思いで、まずは仕上げ材など身近なところから、再利用や再生可能な素材を取り入れていくことが現実的な一歩だと感じています。小さな取り組みでも、それが積み重なることで、“循環”という考え方が建築の現場や日常の中に少しずつ浸透していく。そして、さらに大きな循環を生み出していくためには、設計・施工だけでなく、社会全体としての意識や仕組みが変わっていくことが不可欠です。
今、社会全体が環境配慮への方向へと確実に進みつつあるなかで、施主・設計者・施工者の三者が同じ方向を見据えて取り組めることは、決して当たり前ではなく、貴重なことだと感じています。そのどのパーツが欠けても実現は難しくなる。業界を超えて、社会全体で一人ひとりが環境に対する意識をたかめていくこと。今回のような取り組みがその一歩となり、次の循環につながっていくことを願っています。(株式会社玉井設計 安藤裕太さん)
“環境配慮”を伝える場として、現場ができること。
―淺沼組名古屋支店 山田幸一

私は、淺沼組名古屋支店改修プロジェクトの施工に携わりました。当時は、現在ほど社会全体に環境への意識が浸透していたわけではなく、自然素材を使い、一から空間をつくることの難しさを強く感じていました。特に「いずれ土に還る」というコンセプトのもと、接着剤などの人工素材を混ぜずに、自然素材で仕上げるという選択は、一手間も二手間もかかる作業でした。
けれども、その取り組みがいま、社会の変化とともに多くの方に共感され、名古屋支店には今も多くの見学者が訪れています。環境への関心が高まりつつある今だからこそ、現場として何ができるのかを改めて考えるようになりました。
現実として、こうした取り組みがすぐにあらゆる現場に広がるかというと、決して簡単なことではありません。それでも、名古屋支店での経験を活かし、環境配慮の重要性だけでなく、「それがどれだけ心地よさにつながるか」ということを体験として伝えていくことが、自分にできることだと感じています。
そこで現在は、現場事務所にも取り外し可能な土壁パネルを設置し、設計者や事業主の方に実際に触れていただく機会を設けています。興味を持っていただいた方には名古屋支店をご案内し、淺沼組の取り組みを“体験を通して”伝えるようにしています。
今回は、新築現場ということもあり、基礎工事で発生した建設発生土をすぐに廃棄せず、現場で保管しておきました。事業主の方が土壁に関心を持ってくださったことで、その土地の土を再利用することができたのは、環境への取り組みとしても非常に意義のあることだったと感じています。また、DX化の一環としてBIMを活用したことで、図面では伝わりにくかった部分も3Dで可視化でき、関係者が空間の具体的な場所や内容を共有しやすくなりました。結果として打合せがスムーズに進み、工事全体の精度向上にもつながったと実感しています。
その一方で、土という原始的で手触りのある素材に実際に触れ、多くの人の手で仕上げていくプロセスを通じて、空間に“つくった人の想い”が宿るようにも感じました。デジタルを活用しながらも、人と人のあいだにコミュニケーションが生まれ、使い手であるお施主様にも施工に関わっていただけたことは、非常に嬉しいことでした。
こうした取り組みを、今後も一つひとつの現場で実現していけるように、自分の実感から得た学びを伝え、地道に環境配慮への取り組みを続けていけたらと考えています。(淺沼組名古屋支店 山田幸一)

施設概要
名称:東海労働金庫桑名支店
所在地:三重県桑名市
竣工年:2025年7月
設計:株式会社玉井設計
施工:株式会社淺沼組
構造:鉄骨造 階数:地上2階 延床面積:843.29m2
2025.12.26更新