⼈はサウナで再び⾃然とつながる(前編)
『サ道』著者 タナカカツキさんインタビュー

2022年12月、東京都渋谷区にオープンした「渋谷SAUNAS」。空前のサウナブームを巻き起こした書籍『サ道』の作者であり、日本サウナ・スパ協会公認のサウナ大使として活躍するタナカカツキさんのプロデュースによって、理想的に「ととのう」ための、サウナに特化した施設が誕生しました。

淺沼組では、設計・施工を担当。体のサイクルを整える、まさにGOOD CYCLE PROJECT。
サウナファン待望の、細部までこだわりの詰まったサウナ施設の紹介と、プロデュースをされたタナカカツキさんのインタビューをお届けします。(全3回)

この記事は、タナカカツキさんインタビュー前編・後編の前編です。

<前回の記事>
日本のフィンランド式サウナ発祥の地、渋谷で理想的な「ととのい」を提供する渋谷SAUNASが誕生

書籍『サ道』は、サウナ愛好者の“バイブル”と呼ばれ、空前のサウナブームの火付け役となったタナカカツキさん。2015年に「モーニング」にて『マンガ サ道』のブロック連載がスタートし、2019年にテレビドラマ化。サウナブームに火が付き、「ととのう」が流行語となりました。タナカさんは他にも、「コップのフチ子」の生みの親。実は、このコップのフチ子さんも、サウナで考えて浮かんだアイデアだと言います。

タナカさんがサウナに出会ったのは2008年のこと。それから、サウナへの愛を一筋に貫き通してきたタナカさんが手がけた「渋谷SAUNAS」の魅力と、サウナの「ととのい」の魅力とは。現代人がここまでサウナに惹かれる理由には何か深いわけがあるはず。
そして、「GOOD CYCLE PROJECT」にちなんで、人とサウナのGOOD CYCLE な関係性とは、とタナカさんに聞きたいさまざまな質問にお答えいただきました。

サウナの基礎を、渋谷で味わう

今日は、お忙しいところお時間をいただいてどうもありがとうございます。タナカさんはサウナ大使として、マンガや書籍など幅広くサウナの魅力を伝えてこられて、今回「渋谷SAUNAS」のプロデュースは、今までタナカさんの考えられてきた、サウナ施設としてやりたいことをギュッと凝縮したような空間ということでしょうか?

タナカ

そうですね。やりたいこともそうなのですが、まずは、すごく基本的なサウナの楽しみを感じられるということですかね。つまりちゃんと「蒸気」で温まり、「冷水」でクールダウン、そして「休憩」をしっかり取れる都市型サウナは意外と少ないんです。「水風呂は良いけど」とか「サウナは良いけど」と偏ってしまっていることが多い中で、標準的なこと、しっかりサウナ浴の基本がある、ということですね。

そこにもタナカさんの、サウナに対する愛を感じますね。

タナカ

すいませんねぇ。笑 サウナはフィンランドが本場と言われていますが、日本に輸入されてきた時に、色々と勘違いも含めて、日本の独自の解釈がずいぶん広がってしまったところがあるんですね。具体的に言いますと、サウナ室にワイドショーがずっと流れるテレビがあるということも、サウナ文化からしたら、ものすごく異質なことなんですよね。もちろん、サウナ室でワイドショーを見るという楽しみもあるのですが、そこでは、やはりリラックスできない空間になってしまう。他にも、水風呂も水を溜めているだけだったり、水風呂がない施設もあったりしますので。まだまだ日本では、サウナの基礎からしっかりできるところはそんなに多くないんです。

都心で、この規模で、サウナのためのサウナ施設というのは初めてなのでしょうか?

タナカ

歴史的には実は初ではなく、日本のサウナ史としては、渋谷は日本で初めて本格的フィンランド式のサウナが入った場所になります。その後、日本のサウナが独自の進化を遂げてしまって、サウナのあるべき姿を継承できなかったのが日本の断絶したサウナの歴史と言いますか…。特殊な状態のまま楽しんじゃったというか。おじさんが汗をかく、ガマンということになっちゃっていますからね。

私もイメージ的には、ゴルフの後のサウナとか、おじさま方の楽しむものというイメージがありました。笑

タナカ

おじさんのイメージですよね。もちろん私もおじさんで、実際に楽しんでいるわけですけど。なので、そこら辺をちょっとフラットにできたら良いなと思っているんです。おじさんだけのものではなく、全ての人にとって心地の良い、サウナ体験をしていただきたい。それがこの渋谷SAUNASですね。

現代社会の病、疲れの種類が変わってきた

サウナというと、もともとは自然とのつながりが重要なのでしょうか?

タナカ

サウナの歴史的にいうと、自然しかないところ、人工物がないものから発生してきたものですから、当然つながりはありますね。それを、なぜ、あえて「自然」と言わなければいけないかというと、都市の中で、ライフスタイルが随分と変わったことにあると思いますね。

人工物に囲まれて、始終人工の光を見て、これほど自然と、もっというと植物、土とかとここまでかけ離れた時代というのはかつてなかったと思うのですよね。その中で、体は疲れていないけれど脳が疲れている、という現代の病がでてきました。お医者さんにかかったりする時も「ちょっと心を」とか、デスクワークで運動不足や血流が原因で病気になったりするということが多くなってきました。普段から空気が調整された、エアコンの生活の中で、汗をかくこともあまりなくなって。昔はちゃんと、暑い時には汗をかいて、体の温冷調節ができる。自律神経がちゃんとしていたのでしょうね。

体を甘やかす環境をつくってきたということですね。

タナカ

そうですね。負荷がかからない生活を、私たちはつくりあげたわけなのですよね。人と自然との関係でいうと、これまで自然災害で命を失ったり、感染症の問題がいつの時代もあったりと、長い間、猛威をふるう自然と戦ってきました。私たちは、もう虫のいないところを、生活空間として確保することができたのだけど、今、その弊害というのがおさえきれないくらい顕著になってしまったのかなと思うのです。それは、やはり、私たちの「疲れ」にあらわれている。疲れというのは、心の疲れや脳疲労ということですよね。最近「脳過労」というワードも出てくるくらいに。

昔は自然と体を動かしていたけれど、今は心と脳が疲れている状態。というか、バランスが崩れた状態ですよね。バランスが崩れたところを、私たちが本来持っている回復力、つまり治癒力とか、そういうものを下支えしてくれるものが、自然体験だと思うんですよね。公園に行ってちょっと散歩するだけでも気持ち良いというのは、きっと情報とか思考とか意識から少し離れて、心地良さや、「感覚が満たされる」のを感じるから、そういったものに包まれ、体験した時に穏やかな気持ちになる。そのために、自然というのは1日のうちにどこかで触れ合いたい要素だったりすると思うのですよね。

昨今、色々なものがブームですけど、なかでも「一人キャンプ」や「マインドフルネス」、「猫ブーム」など、今若い人たちの間で、ブームと呼ばれるものを観察してみると、「感覚への満たし」に対して価値を見出しているのかなという感じがするんですよね。「大勢でキャンプに行こうぜ」というのが昔だったと思うのですが、今は、1人キャンプだったり、お一人様ブームだったり、マインドフルネスも、なぜか1人という。それも、日々私たちが情報社会で24時間、ネットワーク社会の中でずっといるわけですから、これは息が詰まりますよね。

今の時代は、気晴らし程度のもので、映画や音楽など簡単に楽しめるようになりましたけど、やはり「気晴らしと」と「休息」って、違うものなのですよね。一刻の気晴らしでは、なかなか私たちの脳疲労や心の穏やかさを手に入れにくいところで、そこでやはり「サウナ」というものが半ば強制的に感覚世界へ誘ってくれますからフォーカスされたのかと思うのですよ。そう考えれば「サウナブーム」というのも、時代的なものなのかなと思うのですよね。

サウナで再び自然とつながる。五感の満たしが、疲労を回復する

面白いですね。サウナはもともと、自然の中で熱と水を利用してできたもので、それが、現代ではおじさまの楽しみとして普及されたけど、実はサウナって、自分たちの今の環境とは違うことを感じる中で、「もう一度自然つながる」ということなのでしょうか。

タナカ

そうですね。結局、サウナ施設に行きますと、私たちは、そこで服も脱ぎますし、肩書きもそこではありません。完全に生身の人間としてそこにエントリーするわけなんです。周りを見渡せば、水のゆらぎだったり、光だったり、風だったりしますからね。そこには意味とか、意識とか、情報とかから断絶された体験をすると思うんですよね。体が熱いとか、冷たいとか。五感の満たしですよね。それを全部公共の面前で、裸で行うというね。笑
これはもう野生の体験ですよね。そこには生身の人間の楽しみがあるわけで、これは神経からするとものすごくなつかしいというか。自然に元気になるというか。元気になって脳が休まるというかね。ですのに、サウナ室行って、テレビがついてワイドショーが流れていたら、困ったもんだという。サウナって、情報から切り離される醍醐味がものすごくそこにはあるのに。

一方で、昨今のエンタメ的なサウナも非常に盛り上がっているんですよね。新しい遊びの価値というのが生まれてきているので、それはそれとして、文化・日本のカルチャーとしてサウナ大使としても楽しんでおります。ただ、今回の渋谷SAUNASのプロデュースとしては、「レスト」でありたい。「レジャー」でなくて「レストサウナ」というのを、徹底的にやっていきたいですね。

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