⼈はサウナで再び⾃然とつながる(後編)
『サ道』著者 タナカカツキさんインタビュー

2022年12月、東京都渋谷区にオープンした「渋谷SAUNAS」。空前のサウナブームを巻き起こした書籍『サ道』の作者であり、日本サウナ・スパ協会公認のサウナ大使として活躍するタナカカツキさんのプロデュースによって、理想的に「ととのう」ための、サウナに特化した施設が誕生しました。

淺沼組では、設計・施工を担当。体のサイクルを整える、まさにGOOD CYCLE PROJECT。サウナファン待望の、細部までこだわりの詰まったサウナ施設の紹介と、プロデュースをしたタナカカツキさんのインタビューをお届けします。(全3回)この記事は、タナカカツキさんインタビュー前編・後編の後編です。

<前回の記事>
人はサウナで再び自然とつながる。(前編)『サ道』著者 タナカカツキさんインタビュー

サウナと音楽の新しい試み

今回の渋谷SAUNASでは、「サウンドサウナ」が新しい試みとして入れられましたが、音楽とサウナについて伺えますか?

タナカ

サウナって、裸っていうのが、すごく特徴的な遊びだと思うのですよ。なかなか裸で遊ぶってないですよね。皮膚は相当に繊細に環境を感知しているらしく、熱もわかりますし、湿度もわかる。人間が分からないダストの多い空間など、心がキャッチしていない情報も皮膚がキャッチしている。皮膚は高度なセンサーなのですよね。皮膚は香りもわかるし、色もわかると言います。

この「皮膚で音楽を聞く」っていうのは、原始人の時は普通に、裸で音を聞いていたと思うのです。森の中で裸でいた、っていうのは、目や耳だけではなく、五感で外部からの危険を捉えていたわけですからね。今は、音楽を聞くっていうのは、耳のこととして捉えてしまうのですが、せっかくサウナ室では裸なので、「裸できく」ということに特化した音楽体験というのをしていただきたいなと思っているのです。コンサートホールでもライブ会場でも裸で聞くのは無理なのですよ。これは音楽家にとってはものすごくチャレンジしがいがあると思います。これをサウナスでやりたい。音楽でうっとりする体験とか、それこそ、音って野生的な部分がありますよね。私たち、嫌な音とか気持ち良い音とかって、最初から体にあるじゃないですか。

無意識の中で心地よい音や、自分の好きな音は組み込まれている気がします。

タナカ

裸で音楽を聴いて、皮膚で振動を感じて聞いて気持ち良いってあると思うんです。サウナ好きの作曲家、とくさしけんごさんに協力していただき、サウナ室という特殊な環境に特化した音楽をつくっていただきました。そして、スピーカーもサウナ用につくっていただきました。

渋谷SAUNASから、今後も音楽をつくりつづけていく予定なのでしょうか?

タナカ

そうですね。ここでしかない、音の体験というのを深めていけたらと思いますね。

「SOUND」サウナ室 サウナのために特別に開発されたサウンドシステムを搭載し、ロウリュの熱と音の広がりを考慮して設計された円錐版の反射板が特徴的なサウナ室。

カルチャーの発信地で、SAUNA文化を開く

渋谷は昔から若者が集まる場所で、カルチャーの発信地であり続けるところ。また、最初に少しお話が出ましたが(インタビュー前編)もともとは渋谷が日本での本格的フィンランド式のサウナ発祥の地でもあったわけですね。ここから先、渋谷SUNASができて、どのようにこの施設が育っていけば良いなという思いがあるのでしょう?

タナカ

そうですね。サウナブームで、一番みなさんストレスなのは、混んでいるということだと思うのですよ。これまで老舗の常連客の方は、多分、このブームで追い出されてしまったのかと思うのですよね。それは、日本のサウナの数が圧倒的に少ないからだと思うんです。これだけ人を元気にして、意欲を盛り上げてくれるような場所がまだまだ少ししかない。もっと言わせてもらうなら、渋谷SAUNASは、ただ疲れた現代人を癒すだけでなく、覚醒していただきたいんですよね。サウナで内省し、静けさの中、自分自身の考えに耳を澄ませて、己を俯瞰する。
『あぁ、今までの自分の生活は少し間違っていたなぁ』とか、今の生き方だったり、考え方だったりをアップデートしていただけるような施設を目指したいですし、サウナってそれくらいのパワーがあると思うんですよね。なので、SUNASという施設は、もっとたくさんあってもいいなあと思っています。それで複数形にしてサウナに「s」がついているんです。

なるほど。では、これから渋谷を出発点として色々なところに広がっていくということですね。

タナカ

そうですね。渋谷が失敗したらなくなる話ですけどね。笑 やっぱダメだったという。サウナ大使がサウナ室で倒れて死んじゃったとか、水風呂で死んじゃったとか。やっぱりサウナは危険だったという。笑

サウナブームが下火に…笑

タナカ

下火どころかマイナスですよ。終わりですね。完全に。だから、事故だけは気をつけようと思っているし、病気もしたらだめじゃないですか。

病気できないですね。サウナ大使が倒れたら体に悪かったということになりますもんね。笑

タナカ

でしょう。『めちゃめちゃ免疫力下がってたなアイツ』ってなるんで。その重圧で死にそうです。笑 その重圧が一番ストレスです

サウナに入ってその重圧をなくしているのですね。笑

タナカ

その重圧を一瞬サウナでととのえる。でまた、すぐ日常に戻ってすぐ重圧。笑

タナカさんはどれくらい、サウナに入られているのですか?

タナカ

それはもう毎日入っているのですけれど。お風呂みたいなんでね。

サウナにとって大切なGOOD CYCLEとは?

最後にお聞きしたいのですが、サウナにとって、最も大切なGOOD CYCLE とはなんでしょう?

タナカ

そうですね。最初はいろんな施設に行って、そのお店のサウナを楽しむということがあるのですが、もう一つとしては習慣化させてゆく楽しみがあります。サウナの効能って色々と言われているのですが、例えば、自律神経をととのえるとか、安眠、美肌、免疫力をあげるとか。色々ありますが、それが本当に自覚できるのって、それなりに時間がかかるんですよね。温泉と一緒ですけど、一回入って美肌だって言われるのは、一瞬じゃないですか。成分がついたり、血も巡ったら、一瞬的には美肌になったり、温泉入ったら疲れるから良く眠れるようになりますよね。本当にそれが普段から実感できるまでおりてくるというのは、体質が変わるということなので、やっぱり時間かかることなのですよ。それはサウナに行き始めて、何年かして、生活の中に取り込まれた時ですよね。あるとき、サウナのいわゆる効能と言われるものが、自分の体質の変化とか、それは年齢の変化とかもありますけれど、実感するんですよね。風邪もひきにくくなったかなぁ〜とか。1日の中で、サウナの時間があるとないとで、多分予防医学的にも全然違うと思います。

タナカさんはどれくらいで変化を感じるようになったのでしょう?

タナカ

私は5年かかりましたね。ほとんどデスクワークなので、始終パソコン見ていると、首、肩が凝るんですよ。腰も良くない。そういうのが本当になくなるまでは5年かかりました。

今は?

タナカ

もうまったく凝らないですよね。眼精疲労というのがずっとついて回っていたので、それがなくなって本当楽になりました。今はサウナに入り始めて10年目なんですよね。10年経つとかなり皮膚の状態が変わると思います。

1回やってということではないんですね。ライフサイクルの中にサウナの温冷交代の循環を取り入れることが大切だと。

タナカ

そう。温泉や食生活と一緒ですね。生活習慣に無理なく取り入れるということですね。
今後そういうデータも出てくると思います。毎日サウナに入っている日本人と、入っていない日本人でどう違うのか。どんな病気のリスクが軽減されるのかとか、そういうデータがこれから出てくるとおもしろいですね。

生活の中で繰り返し取り入れながら「ととのう」感覚をつきつめていく、だから道なのですね。「サ道」という。

タナカ

道ですね。まだ、道なかばですけどね。

サウナ大使の、愛ある『サ道』の伝授をいただき、ありがとうございました。お話を聞き、サウナの魅力を聞いているうちに、想像するだけで「ととのい」を体験できた気がします。
SAUNASがこれから色々な場所に広がり、現代人の疲労が少しでも癒やされ、ウェルビーイングな暮らしに近づくとよいですね。

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